第二十九話「グレイの偽り」

港に向かって歩いている一同。
ゲンキ「あ、ちょっと待てよ!」
すると突然、ゲンキが何かを思い出したようにそう言って立ち止まった。
そんなゲンキを不思議に思い、一同は立ち止まる。
ホリィ「どうしたの? ゲンキ。」
ホリィは、不思議そうな顔でゲンキにそう問いかける。
ゲンキ「いや、グレイの紋章を何とかしなきゃヤバイんじゃないかなって思ってさ。」
ゲンキは、少し困ったような顔でそう答えた。そんなゲンキの言葉に、一同は納得した。
確かに、グレイが胸に着けているワルモンの紋章をどうにかしなければ、街は大騒ぎになってしまうかもしれない。
オルト「一体何がヤバイって言うんだよ?」
納得した一同の中、たった一人状況を飲み込めていないオルトはそう問いかける。
サンダー「えっと……。例えばさ、魔界の平和な村ん中に、突然悪いデビルがやって来たらどうなるよ?」
サンダーは、グレイの頭の上に乗ったまま、少し考えながら、そう例え話をした。
オルト「あー、多分大騒ぎになるな。」
サンダーの言葉に、オルトはそう答える。
サンダー「でしょ? つまり、ワルモンの紋章つけたグレイがこのまま街に入ったら、それと同じ事が起こるんじゃないかってコト。」
サンダーがそう言うと、オルトはようやく納得したようだった。
アメ「つーかさ、サンダー。“悪いデビル”って何だよ?」
アメモンは、聞き慣れない言葉の意味を問いかける。
サンダー「あぁ……。ちょっと前に、魔界にもいたんだよ。ワルモンみたいな奴らがさ。」
サンダーは、苦笑してそう答える。
モッチー「それが、悪いデビルッチ?」
モッチーは、確認するように聞いた。その言葉に、サンダーは笑顔で頷いた。
オルト「なら、その紋章何とかしないとな。」
オルトはサンダーの例え話から続けるように、そう言った。
グレイ「そうだな……。ワルモンじゃなくなった以上、コレももう必要ねェし。」
グレイはそう言って、胸に着いている紋章に触れる。
ギンギライガー「だが、どうするんだ? 外すのだって、容易くはないだろう……。」
ギンギライガーがそう言っている最中、グレイは胸の紋章をいとも簡単に取り外した。
簡単にワルモンの紋章を取り外したグレイに、
(そう簡単に取れる物ではないと思っていた)一同は、一時身動きも取れないほどに驚く。
ライガー「ギンギライガー、あの紋章はあんなに容易く取り外せるような物なのか……?」
しばし固まった後、ライガーはワルモンだった弟に、そう問いかける。
ギンギライガー「いや、そんな簡単に取り外せる筈は……。あれは滅多な事では外れなかった筈だ。」
ギンギライガーは、驚き戸惑いながら、そう答える。
ニナ「じゃあ一体……。どういう事?」
ニナは、驚きながらも、グレイにそう尋ねる。
グレイ「……申し訳ありません、ギンギライガー。オレ、ずっと貴方に嘘を吐いておりました。」
グレイは本当に申し訳なさそうな顔をすると、ギンギライガーの前に跪いてそう言った。
ギンギライガー「嘘……?」
ギンギライガーは、怪訝な顔でそう聞き返す。
グレイ「はい。オレは、実際にはワルモンになってはおりませんでした。ずっと、なっているフリをしていたのです。」
グレイは、跪いて頭を下げたまま、そう答える。
サンダー「あのね、ギンギにいちゃん。グレイは、おれを探すために、ワルモンの中に紛れ込んだんだって。」
サンダーは、グレイの頭の上から跳び降りると、そう言った。
ライガー「サンダーを探すため?」
ライガーは、怪訝な顔をして、グレイにそう問いかける。
グレイ「オレは、サンダーと逸れてから、色んな世界を廻って、ずっとサンダーを探していたんだ。でも……。」
グレイは、一旦顔を上げてそう答えるが、最後のほうは俯いて言葉を濁した。
サンダー「でも、どの世界にもおれは居なくて、この世界に来た時に、ウワサを聞いたんだよね。」
サンダーは、俯いて言葉を濁すグレイに助け舟を出すようにそう言う。
グレイ「あぁ。……ワルモン共が、“進化の光”を見付けたらしいっていうな。」
グレイは、サンダーの助け舟に答えるようにそう言った。
オルト「で、その進化の光がサンダーの事に違いないって思って、ワルモンの中に紛れ込んだってワケか。」
オルトがそう言うと、グレイは頷いた。
ハム「ですが、一体どうやってあの紋章を?」
ハムは、不思議そうな顔で問いかける。
グレイ「あぁ、それは簡単だよ。こうやって、念で葉っぱを紋章に見立てて……。」
そんなハムの問いに、グレイは跪いた体勢だったのを元へ戻し、
そう言いながら一枚の葉っぱを拾って、その葉に念を送った。
すると、その葉っぱはたちまち、ワルモンの紋章に姿を変えた。
一同「?!!!」
そんな見た事もない現象に、一同は声も出ないほどに驚いた。
グミ「え~、何々、一体ど~なってるのさ~?」
そんな中、グミモンは興味津々といった表情でそう問いかける。
グミモンだけではなく、チョコモンやアメモンやモッチーやホッパーも同じように眺めていた。
グレイ「だから、念を送って、形を違うように見せてるだけだって。」
興味津々に聞いてくるチョコモン達(+モッチー&ホッパー)に、グレイは苦笑してそう答える。
チョコ「ね、それってもしかしてさ、サンダーがよくやる変化(へんげ)みたいなヤツ?」
チョコモンは、興味津々といった感じに身を乗り出してそう聞く。
グレイ「ああ、そんなもんだ。っつっても、コレは変化よりも上級技だけどな。」
グレイは、楽しそうにそう答える。
サンダー「え~、ウソだぁ。形状変化(けいじょうへんか)のほうが、変化よりもよっぽど簡単じゃんか。」
サンダーは、怪訝な顔でそう口を挟む。
グレイ「そう思ってんのはお前だけだ。」
グレイは、サンダーの言葉に即座にツッコミを入れる。
ホッパー「ホパパ~?」
ホッパーは不思議そうにそう聞く。
グレイ「あー、形状変化ってのは、オレがさっき皆に見せたヤツの事だよ。」
グレイは、何事もなかったようにそう答える。
どうやら、グレイにもホッパーの言葉が分かるらしい。そんなグレイに、ホッパーは少し驚いた。
オルト「サンダーって、物事に勝手に名前付けるの好きだよな……。」
オルトは、溜息混じりにそう呟く。
サンダー「えーっと、じゃあそろそろこの辺で閑話休題としようか?」
サンダーは、オルトの言葉は聞こえなかったものとして、話を本筋に戻そうと提案する。
グレイ「ああ……。え~っと、どこまで行ってたんだっけ?」
グレイは、少し考え込む。
オルト「……葉っぱを紋章に変化させたってトコまでだよ。」
オルトは、少し呆れたようにそう言う。
グレイ「あ、そっか。で、それをこうやって胸に取り付けて……。」
グレイはそう言って、葉っぱを変化させた紋章を胸に当てる。
すると、紋章は胸にくっつき、グレイが手を離しても取れなくなった。
モッチー「チー♪ すごいッチ~v」
モッチーは、まるで手品を見る無垢な子供のように目を輝かせてそう言った。
そんなモッチーに、グレイは子供のように無邪気な顔で笑い、またワルモンの紋章を外して葉っぱに戻した。
グレイ「んで、後は簡単。数匹のザコ共の記憶を少々操作して、“新入り”としてワルモンに入り込んだんだ。」
グレイがそう言うと、一同は再び驚く。
ギンギライガー「記憶を操作……?」
ギンギライガーは驚きつつも、そう聞き返す。
グレイ「えぇ、オレは過去を司る者ですから。一応、そういう事は容易くできます。」
グレイは、再び跪いて、そう答えた。
オルト「けどさ、お前……。記憶操作の技は“反則っぽくて嫌いだ”っとかなんとか言ってなかったか?」
オルトは、不思議そうにそう問いかける。
グレイ「まぁそうなんだけどさ……。でも、サンダーを見つける為だぜ? 好きも嫌いも言ってらんねェだろ。」
グレイは、跪いていた体勢をくずすと、そう答えた。
ギンギライガー「……俺の部下になったのも、その記憶操作という技でか?」
ギンギライガーは落ち着いた様子で、グレイにそう問いかける。
グレイ「いいえ! 俺が記憶操作を使ったのは、最初に入り込む時に近くに居たザコ共だけです。」
グレイは、三度跪くとそう答えた。
グレイのその答えに、ギンギライガーは「そうか。」と一言だけ呟いた。
ゲンキ「なぁ、グレイ。何でお前、さっきからギンギライガーにだけ敬語なんだ?」
ゲンキが不思議そうにそう尋ねると、グレイは困ったように固まる。
サンダー「あぁ、あの態度差はね……」
グレイ「いや、あれはただの癖だよ、癖。」
グレイは、代わりに答えようとしたサンダーの言葉を遮ってそう答えた。
サンダー「え~、ウソだぁ。グレイがあーゆーふうに態度差見せんのは、グレイが本当にs……!」
不満げに言うサンダーの口を、グレイは慌てて手で塞ぐ。
グレイ「良いからお前は黙ってろって;」
いきなり口を塞がれて、反抗的な瞳を向けるサンダーに、グレイは少し困ったようにそう言った。
「良いから黙ってろって;」
オルト「そういう微妙な所で話切らすなよ。余計に気になるだろ;」
オルトは溜息混じりに、淡々とそう言う。
グレイ「ま、まぁ良いだろ! 気にすんなって。ほら、早く港に船を探しに行こうぜ!!」
グレイはそう言うと、サンダーを解放して、港町に向かって歩き始める。
サンダー「な~んで、そんな下んないウソ吐くかなぁ~……。」
サンダーは、1人で港へ歩いて行くグレイの方向を向いて、呆れたようにそう呟いた。
オルト「ま、アイツにも色々あるんだろ。」
オルトはそう言って、グレイが歩いていく方に進む。
そんなオルトの言葉に、サンダーは「分かんない。」とでも言いたげに、溜息を吐いた。
ゲンキ「あ! 待てよグレイ! 一番乗りすんのはおれだぁ!!」
ゲンキはそう言うと、港に向かって走って行く。
ホリィ「あ、ちょっとゲンキ!」
ホリィがそう言ってゲンキの後を追うように歩き始めると、一同も同じように歩き始めた。


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